道満丸と重家(鳴海院~謙信の詔)
(もう一つの天地人の物語)
・・・御館の乱の真実」・・・
天正六年の三月に謙信様が身罷われ、翌年の春には景虎様が景勝殿との跡目騒動で自刃に追い込まれたことはご存じと思うが、景虎の長子である道満丸様は景勝殿の罠にはまり惨殺されたのでござる。歴史書では確かにそう書いておるが真実は別の所にござる。それに御館の乱の跡目争いは景虎様の死で終わったのではござらぬ。景虎様には華渓院との間に二人の子息(道満丸とその弟)と一人の姫、側室との間にも姫がお一人おり申した。春日山へ憲政殿と和議のため同行したのは道満丸様と瓜二つの弟君で、二人とも景勝側により途中で惨殺されたのでござる。道満丸様は謙信様の妹で加地城の加地春綱殿に嫁いでいた鳴海院さまの元で元服になるまで匿まわれておいででござった。天正十五年、元服した道満丸様は新発田重家と秀吉・景勝軍を上回る三十万規模の軍を形成し、諸国の後押しも加わり、御館の乱の決戦が行われたのでござる。天正十五年まで阿賀北衆の反抗は続き、秀吉・景勝軍と一進一退を繰り返しておった。戦いに勝利した道満丸様は秀吉殿と景勝殿は粟島というところに流刑者として生涯を終わらせることにしておった。道満丸様は謙信様が書かれておった血判の遺言状を鳴海院から手渡され、天下を収めるに至ったのじゃ。それが春日山城の鳴海幕府でござる。景勝と兼続は謙信様の遺言状の中身をご存じであった。それが、鳴海院様の元にあるがために、執拗に阿賀北衆への攻撃を緩めようとしなかった事情もござる。鳴海の金山には多くの金がでて日の本の約半数を占めていたのでござる。そのこともあったのでござろう。信じるか信じないかはそなた達次第でござる。
其の一 天正五年、晩秋
其の二 御屋形様の真意
其の三 風雲急、春日山城
其の四 本能寺の変、重家の乱
其の五 御館の乱、最終決戦
道満丸と重家(鳴海院~謙信の詔)其の一 初陣01
<あらすじ>
拙者は謙信公の遺言状の巻物だが春日山城で生まれた。初陣の道満丸と後見人の新発田重家は一五八七年、足かけ十年にも及ぶ御館の乱の最終決戦を迎えた。その戦の前に拙者は加地城の土中深く埋められた。御館の乱の決戦で勝利した後、遺言状が掘り起こされることになっていた。謙信亡き後、小姓の勘五郎は遺言状を携え、道満丸と加地城の謙信の妹である鳴海院に届ける。景勝・兼続は阿賀北へ遺言状の奪還を執拗に迫ってくる。道満丸は重家と共に父景虎、母華渓院、弟達の遺恨を胸に景勝・兼続軍との最終決戦に挑む。
其の一 初陣
「道満丸様、いや、御屋形様、輝虎様の下で戦った川中島を思いだしまするぞ。この阿賀野川の向こうには十万の兵が待ち構えてござりまする」
「源太殿、望むところだ。こちらは三十万の兵じゃ。この戦に勝って春日山城に新しい幕府を開こうぞ。越後は言うに及ばず日の本を纏めるのだ」
「頼もしきお言葉恐れ入りまする。これで輝虎様の天下布義の政が叶いまする。必ずや道満丸様の初陣にふさわしい戦となりまするぞ」
「大叔母殿の安堵した顔が観れそうじゃ」
「秀吉殿もこれで見納めにござりましょう」
「亡き御屋形様がご存命の頃を思いだすのう」
「そうでござりまするなぁ」
「それみよ、敵の後方には味方の援軍が駆けつけておる。輝虎様も背中を押してくれているようじゃ。亡き源二郎殿の計らいかもしれぬ」
「まさに後世にも語り継がれる戦となりましょうぞ。鳴海院様も陣へ馳せ参じておりまする」
「白馬の武者姿も凜々しいのう。皆も大叔母殿のあの香りにすっかり酔いしれているようじゃな」
「そうでござりまするなぁ。加地城にお興入れになる前からでござる・・・」
「源太殿、そなた・・・」
「ま、まさしく今でも美しき女毘沙門天の化身でござりまする」
「お若い時は越後一の美女であったと聞いておるが」
「道満丸様、それを言ってはなりませぬ。四十をとうにお過ぎになられた今でもそうでござりまするぞ」
「おう、そうであった、大叔母殿には過ぎた世辞は無用であったな」
「ご無用でござりまする。鳴海院様に過ぎた世辞を疑われては、お命がいくらあっても足りませぬぞ。何を言われてもそう通されませ。一本気な気性は輝虎様譲りゆえ」
「ハハハ、源太殿そのものではないか」
「やはり、そう・・・思われまするか」
「源太殿、顔が赤くなっておるぞ。大叔母殿とそなたはお似合いのようじゃな」
「何を申されまする。滅相もござりませぬぞ。身に余るお言葉なれど、どうかその儀だけはお許し頂きたく」
「なにを勘違いされておる。そなたと大叔母殿とは馬が合っていると言うただけじゃ」
「そ、そ、そうでござりまするか・・・」
「汗もかいてきておるな。眼も潤んでおるぞ。源太殿、一体どうしたのじゃ」
「な、なんでもござりませぬ・・・」
「ハハハ、安堵せよ、そなたの美しい心根は誰にも申さぬて」
「道満丸様にはかないませぬ。しかしながら義をもってそのことは」
「義と酒をもって誓っても良いぞ」
「ハハー・・・」
「この乱世がおさまれば日の本も良くなろう。秀吉殿は権力を金銀で塗ろうとしておる。未来の日の本でも政で金子の悪用はなくならぬであろうが、我らはそれを阻止するための布石を打っておかねばならぬ。亡き輝虎様もそうお想いでござろう。これでは日の本の政が底をつくのは必定じゃ。青苧と鳴海の金山はそのためにあるのではないぞ」
「景勝殿は越後を売る気でござりまするぞ」
「良いか、源太殿、阿賀北衆とともに、義をもって我らは後世に名を残すのじゃ。父上、母上、野斜丸の御霊もこれでうかばれるというものじゃ」
「勘五郎、ワシの後に続くのじゃぞ。秀吉殿と景勝殿の首を取るのじゃ」
「源太殿、あい分かり申した」
「大叔母殿が相槌を打っておる。そろそろ始めるとするか」
「道満丸様、天下布義でござる。いざ、合戦の合図を」