1587<道満丸景虎と小姓の戯言>(天正戦国小姓の令和見聞録)HB

人類の歴史を戦国の小姓の視点で深く追究していきます。

道満丸と重家(鳴海院~謙信の詔)其の三 風雲急、春日山城02

 

道満丸と重家(鳴海院~謙信の詔)其の三 風雲急春日山城02

 

 勘五郎はすでに春日山城を脱していた。

 拙者は景勝殿の配下に追われた勘五郎に背負わされながら、春日山城下ある民家にしばらく匿った。運良くそこは越後青苧座の蔵田五郎殿の大きな商家だった。

「お頭様、お客様でございます」

「こんな夜更けに誰じゃ?名を聞いてもらわぬか」

「ハ・・・」

「どなたであった?」

「勘五郎と申しておりました。かなり憔悴しておるようですが」

「勘五郎・・・すぐお通ししなさい」

「蔵田様」

「勘五郎殿、どうされたのじゃ。泣いてばかりでは分からぬ。真吉や茶を持ってこい

「・・・」

「どうされたのかと聞いておる」

「御屋形様が・・・」

「輝虎様がどうされた?」

「十三日寅の刻に身罷りになられました」

「何ですと」

「九日の軍議の後、厠でお倒れになりまして」

「あぁ、なんとお痛ましや」

「何日かお眠りになされ、そのまま身罷ってござりまする」

「誠であれば一大事じゃ。真吉や、これへ」

「すぐに堺へ使いを出しなさい。垂水源二郎殿といえば分かるが、名や風貌を変えているかも知れぬ。服部殿にも伝えるのじゃ」

「勘五郎殿とやら、輝虎様のご遺言はござったのか」

「こちらでございます。鳴海院様以外お見せするなとご下命を賜っております」

「つまり、御遺言状ということだな。この美しい青い巻物じゃな。麗しい香りじゃの」

「そうでござりまする」

「添えてある匂い袋は柘榴と茉莉花の香りじゃな。さては輝虎様の妹の鳴海院様のものではないか。城内では誰もが存じておる」

「中身はどなたもご存じありませぬ」

「勘五郎殿、そうとわかったら・・・堺にいる源二郎殿がこられるまでここで匿って下され。越後内は何処も関所で厳しいはずじゃ。源二郎殿と扮装して一緒に阿賀北の地まで案内してもらうのじゃ。無事御屋形様の書状は必ずお届けしなければいかぬぞ。景勝殿は執拗に追う性格のお方だ。鳴海院様も輝虎様がお亡くなりになった事を知れば狼狽するとは思うが。阿賀北衆にたどり着くのは難儀になるじゃろう」

「どうかお導きくだされ」

「なに、心配されまするな。阿賀北の関所を無事抜けるまで、源二郎殿が付いておるから安心せよ」

「かたじけのうござりまする」